GSN/D-Caseによる二つの説明の確からしさの比較検討例

最近ある方から興味深い論文を紹介して頂きました。議論学に関係する論文ですが、GSN/D-Caseの特徴や役割を説明するのにも適していそうな例題がありましたので、少しメモしておきます。

その論文には、ある刑事事件が取り上げられていました。

とある国のお話しです。23歳になるダニー(Danny Rijkblom)は、15歳からはじまる多くの犯罪歴がある人物でした。ニコール(Nicole Lammers)は20歳になるパン屋の娘で、ダニーと交際していました。あるとき、ニコールは、両親からの反対もあり、ダニーとの関係を解消しようと決心しました。ダニーに別れを伝えた数日後、ニコールはダニーのアパートに、自分のものを取りに行くため(二人は同棲していました)、両親とともに訪問しました。訪問時にダニーとニコールの父親がけんかを始めました。そのあとからが、二人の女性(ニコールとその母親です)とダニーとの証言が異なるところです。

二人の女性側の証言では、ダニーが拳銃を取り出し、2mの距離から、ニコールの父親の頭部を打ち抜きました。

一方で、ダニーの証言では、ニコールの母親がハンドバッグから拳銃を取り出し、ダニーに拳銃を向けました。ダニーはその拳銃を払い落とそうとしたところ、拳銃が暴発し、不幸にもニコールの父親の頭部に弾丸が命中したとのことです。

このように、ダニーの主張とニコールとその母親の主張が異なっています。どちらが正しいかはこの時点では断言できませんが、どちらの主張がより信じられやすいかをGSN/D-Caseを用いて表してみましょう。
まず、ニコールとその母親の主張に関するGSN/D-Caseのトップゴールは次のようになります。

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また、ダニーの主張はこれとは対立しますので、異なるトップゴールを持つGSN/D-Caseをもう一つ作ることになります。

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次は、現時点で揃えられる証拠を整理してみます。まず、ニコールの父親が死んだことは確認されており論点ではありません。ここは、警察の検死報告書が存在しているはずなので、これを証拠として採用します。

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次に、関係者の証言も、そこで言っていることが事実か否かは別にして、証言そのものは証拠になります。

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上三つのSn1とSn3、Sn6がニコールとその母親の証言、下五つがダニーの証言になります。それぞれ同じ事を言っているものもあるし、異なる主張をしているものもあります。

ここで、分かりやすいように、ニコールとその母親の証言を黄色、ダニーの証言を青色、警察の報告を緑色にしておきましょう。ちなみに、色分けについては、GSN/D-Caseの文法では特にルールは決められていないませんので、自由に使うことができます。

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次に、これら証言によって主張されていることを、証拠に直接結びつけられるゴールによって表現します。

例えば、Sn6『ニコールとその母親の証言3「ダニーが父を拳銃で撃った」』という証拠から主張されることは、「ダニーはニコールの父親を拳銃で撃った」などです。GSN/D-Caseではつぎのように表現します。

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ゴールG14は、ソリューションSn6で参照された証言によって支えられていることを示しています。それでは、ダニー側と、ニコールとその母親側で異論がないことを表現してみましょう。

ニコールの父親とダニーがけんかを始めたことについては、双方同様の証言が得られています。

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ここでは一つのゴールG4に二つのソリューションが対応付けられています。これは、ゴールG4を支える証拠が独立に二つあることを表しています。それでは、分かりやすいようにゴールについても、色分けしておきましょう。双方の証言によって支えられているゴールについては、異論がないこと、すなわち確証が得られていることを表すため、緑色に塗ることにします。異論がないという意味では、警察の報告によって支えられているゴールも双方異論がないと解釈できますので、確証が得られているという意味で緑色にしましょう。証言や証拠から支えられるゴールは次のようになります。

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さて、これらの主張や証言などから双方のストーリーをGSN/D-Caseにより表現してみます。まずは、ニコールとその母側の主張である、ダニー犯行説を表すGSN/D-Caseからです。

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ここでは、前に述べたゴールのうち、G4、G14、G3、G7を使っています。ダニーの証言に基づくゴールであるG9、G10、G15は使っていません。さらに、ソリューションを持たないゴールであるG5「ダニーは拳銃を持っていた」を導入しています。これは、ニコールとその母親側も直接の証拠は持っていませんが、これを仮定すれば、全体のストーリーが成り立つものです。まず、このG5「ダニーは拳銃を持っていた」とG4「ダニーはニコールの父親を拳銃で撃った」を使って、発砲に必要な条件である拳銃の所持と発砲に至った経緯を示すことにより、G13「ダニーがニコールの父親を拳銃で撃つ状況にあった」ことを論証しています。この論証の展開は、ストラテジーS5「発砲に必要な条件と発砲に至った経緯に分けて論証する」によって表現されています。同じように、発砲までの状況と発砲時の状況に分けて論証することにより、G2「ニコールの父親を拳銃で撃ったのはダニーである」ことを論証しています。最後は、このゴールG2とともに、G3「ニコールの父親は拳銃で頭部を撃ち抜かれた」とG7「ニコールの父親は死亡した」に基づき、トップゴールであるG1「ニコールの父親が死んだのはダニーが拳銃で撃ったからである」を論証しています。G3とG7については、それらを統合するような「ニコールの父親は拳銃で頭部を撃ち抜かれて死亡した」などを導入してもよいかもしれませんが、ここでは、ここの議論の展開は論点ではないため、導入せず簡単に記述しています。また、ストラテジーと上位のゴールの色づけについても、これまでの方針を踏襲しています。ストラテジは一般的にはそのサブゴールが全て確証が得られて始めて成立するものですので、例えば、S5については、そのサブゴールG4は確証が得られているのですが、G5については未展開な状態ですので、緑色には塗っていません。したがって、それを利用するストラテジ自体も、確証が得られていることを示す緑色になっていません。同じように、S5によって論証されているG13も、S5が確証が得られているわけではないので、確証が得られていない状態ですので、緑色に塗っていません。

次に、ダニーの主張である、ニコールの母親の過失説を表すGSN/D-Caseを見てみましょう。

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ストラテジの構成などは、ダニー犯人説と似通っていますが、異なる点は、確証が得られていない主張を表すサブゴールがより多く用いている点です。具体的には、ダニー犯人説では、G5、G14の二つしか確証が得られていない末端のサブゴールしか使っていませんが、ニコールの母親の過失説では、G11、G9、G10、G15の計四つもの、確証が得られていない末端のサブゴールを使わないと説明できないストーリーとなっています。この時点では、一般的にはニコールの母親の過失説の方が無理がある説明ということができ、またそれがGSN/D-Caseによっても表現できています。もしこの時点で結論が必要であれば、これらのGSN/D-Caseによって、その判断の妥当性を説明することができます。

しかしこの話しには続きがあり、警察による捜査が進むにつれ、新たな事実がいくつか明らかになってきます。

まず警察は、両者のストーリーの中で未完成の部分、つまり、拳銃の所持について調べるために双方に聞き取りを行いました。ニコールの母親は、「ダニーは警察が持っているような黒いピストルで撃った」と証言し、ダニーの方は、「ニコールの母親は、小さい、リボルバーに似たピストルを持っていた」と証言しました。これらの証言により、それぞれのストーリーが一応完成したことになります。対応する部分のみをそれぞれ示します。

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次の新たな情報は、警察の捜査の進展からです。警察は、拳銃の所持について明らかにするために、拳銃の種類が特定できる情報を集めようとしました。その結果、以下の捜査報告が得られました。

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まず、拳銃の種類の特定に繋がる薬莢は発見されませんでした。しかし、これは薬莢が散乱しないタイプの拳銃の可能性を示唆する情報にはなります。また、警察はダニーについては硝煙反応について調査しており、その結果は「検出無し」でした。これらの情報を加味しアップデートしたGSN/D-Caseを示します。まずは、ダニー犯人説のものを見てみます。

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一応、未展開の部分のないGSN/D-Caseが完成しています。ここで、赤矢印で表現している部分は、標準のGSN/D-Caseにはない表現です。ここでは、新たな新事実Sn12とSn13が、このGSN/D-Caseに対して、ある種の反証や、整合性のとりにくい証拠になっていることを表そうとしています。例えば、Sn12である警察からの追加報告である「事件現場から薬莢は発見されなかった」は、実はG17のサブゴールである「ダニーは型式Aの拳銃を持っていた」が成り立たないことの傍証になっていました。型式Aは、発砲後、薬莢が散乱するタイプの拳銃だったからです。もちろん、ダニーが薬莢を回収した可能性もありますので、そのまま反証にはなりませんが、ニコールとその母親の証言の確からしさを強める方向の証拠ではありません。さらに、ダニーの手から硝煙反応が検出されなかったことも、このGSN/D-Caseに対しては、整合性がとりにくい証拠です。具体的には、G14で主張されている「ダニーはニコールの父親を拳銃で撃った」の確からしさが弱まる方向の証拠です。これも、ただちにこの主張が否定されるわけではありませんが、整合性がとりにくいことは確かです。

一方で、ニコールの母親の過失説のGSN/D-Caseを見てみます。

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こちらのGSN/D-Caseでは、新たな証言とともに、警察による追加の報告についても、整合性のある形で位置付けられていることが分かります。例えば、Sn12の「事件現場から薬莢は発見されなかった」という追加の報告については、Sn11のダニーの証言で主張されているG18の「ニコールの母親のは、型式Bの拳銃を持っていた」に関する傍証になっています。型式Bはリボルバー型の拳銃であり、リボルバー型の拳銃は薬莢が散乱しないことが知られているからです。ただ、警察の報告といっても、この事実だけでG18を証明することにはならないので、G18は緑色には塗っていません。同じように、Sn13の「ダニーの手から硝煙反応は検出されなかった」という警察の報告は、G15の主張「ニコールの母親の持っていた拳銃が暴発してニコールの父親を撃った」をそのまま証明することにはなりませんが、整合性がとれ、かつ、G15の確からしさを強める方向の証拠であることは確かです。

この後、新たな事実が判明したかどうかは分かりません。ただ、この時点では、これらのGSN/D-Caseを比較することにより、ニコールの母親の拳銃の暴発説の方が説得力があることを説明できると思います。

このように、GSN/D-Caseを活用することにより、不完全な情報の中で意思決定をしなければならないような状況で、客観的な事実と、そうではない、後に覆される可能性がある主張とを明確に区別することにより、その判断の合理性を説明することができます。さらに、ここでは手動で各ゴールの状態を表現するために色づけしたりしていましたが、原理的には評価アルゴリズムを与えるなどして自動化が可能です。設計時やプロジェクトを進める上では、未来について未確定な状況で意思決定しなければならない場合もあるかと思います。その際はぜひGSN/D-Caseの活用を検討してみてください。

ちなみに、ここで紹介した刑事事件の事例が紹介されている論文は以下のものです。紹介いただいた方に感謝します。

F. J. Bex, H. Prakken, and B. Verheij. 2007. Formalising argumentative story-based analysis of evidence. In Proceedings of the 11th international conference on Artificial intelligence and law (ICAIL ’07). ACM, New York, NY, USA, 1-10.

※この記事のGSNは、「astah* GSN」を使って描きました。50日間無償で使えます。
http://astah.change-vision.com/ja/product/astah-gsn.html

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